Archive for 2000年6月16日

B級グルメ・エッセーを検証する会―ラーメン編―

弓山 全国100万のB級グルメの皆さん、こんにちは。さて、このコーナーを立ち上げて、数ヶ月が経ちますが、いっこうに更新されないことに、ファンの皆さまが業を煮やして、私にエッセーのネタを提供してくださいました。その名も「B級グルメ・エッセーを検証する会」。今日は、その会の模様をお知らせしましょう。ちなみに、会のメンバーは私の元受講者。つまり大学生。検証したのは「丸長のつけそば」で、チャーシュ野菜つけ。

 では、まず一人ずつ感想を。

佐藤 弓山先生は講義でいつも「オレはダブル・スタンダードだから」と、うそぶいているので、きっとこのB級グルメでも、何かテキトーなこと言ってんだろうと思って、この会を開きました。

弓山 おい、いきなり喧嘩うってんのかよ。それでチャーシュ野菜はどうだったんだよ。

佐藤 まぁ、マズくはないですね。こんなもんかなぁって感じですか。麺が暖かったら、もっといいと思いますね。

高橋 えっ、でも佐藤君、そうかな。店から出てきた直後の僕達に見せた、顔全体から溢れんばかりの、満面の笑みが全てを物語っていたと思うけど。

佐藤 確かに嬉しそうな顔したかもしれない。でもそれと美味しいっていうのは関係ない。そもそも何で君は僕が美味しいと思ったのか、その根拠を示してよ。

弓山 どうでもいいけど、感想進めましょう。

高橋 僕は麺を中盛りにしたんすけどね。量が半端じゃない。この上に大と特大があると思うと怖くなる。味は、よかったっすよ。

野村 丸長は、おいしかったです。ただ先生の「ラーメン、超えちゃったな」という感覚はまったく理解できませんでした。一回食べたくらいでは、理解できないほどの奥深さなのかもしれません。僕の場合は、単純においしければいいやという感じです。

弓山 はい、三者三様ですね。まず、麺が暖かかったら、ということを検討しましょう。実はつけ麺で暖かい麺を出すところは結構あるのです。だいたい「アツモリ」と呼んでますね。東池袋の「大勝軒」とか、早稲田の「べんてん」とかですね。しかし、私は個人的には「アツモリ」はどうかと思いますね。なぜかというと、日本ラーメン史はそば職人の影響が大なのです。つけ麺はそばの発想だと思います。麺のうま味を十二分に引き出すためには、やはり常温で食すのが一番だと。実際、一度「べんてん」でアツモリを食いましたが、これだったら普通のラーメンでいいや、という感じでしたね。丸長のばあいはタレも魚系ですから、ラーメンというより「そば」に近いかもしれません。

高橋 大勝軒はよく聞くけど、「べんてん」っていうのは初耳っすね。

弓山 あっ、凄いですよ。何が凄いって、11時開店のはずなのに、10分は遅れて始まる。暑かろうと寒かろうと並んでいる客を中に入れない。

高橋 それって、単に嫌なオヤジじゃん。

弓山 いや、それだけじゃない。店の入り口には新聞に折り込み広告の裏に稚拙な字で、「あっさりした味がいい人は余所に行け」っていうようなことが書いて張ってある。店に入って勝手注文をすると「こちらが聞くまで待っていろ」とたしなめられる。いやぁ、緊張するね。

野村 がんこ系は「スープの出来の悪い日は休業」ってなってるし、がんこ江古田店は会員制らしいですね。強気の態度は人気に裏打ちされているからなんでしょうけど、僕にはどうしても並んでまで食べるということがわからない。

弓山 ほら、ボクシングやロックは単にスポーツや音楽ではなく、「生き方そのものだ」って言う人がよくいるでしょ。それに近いんじゃないでしょうか。

野村 ラーメン並ぶのが「生き方」?

弓山 いえ、単に味で勝負するのではなく、並んで、麺茹でてんの見て、食って、スープ飲み干して、「べんてん」なら「べんてん」体験、丸長なら丸長体験がなされる。今年は慶応に非常勤で行っているので、ほぼ毎週、閉店の4時直前に二郎食べて講義をやっています。汗だくになりながら、「今、食べてるモノは果たして美味しいのだろうか」って反芻するんです。

佐藤 食いながら反芻って、牛みたいですね。

弓山 チャチャ入れんなよ。それで、答えは「やっぱ、美味いっていうんじゃねーな」なんだ。味濃いし、脂でギトギトだし、ニンニクで後の講義に差し障りが生じるし・・・。でも、毎週食べてしまう。つまり、二郎に並ぶのは美味いモノを食うためではなく、二郎体験をするためなんだ。

佐藤 つまり、先生はマズいものを食べることが、「生き方」だって言うのですか?

弓山 いや違うかな。つまり武士道みたいなもんなんだ。

佐藤 もっとわかんなくなった・・・

弓山 つまり、剣術なんて人殺しですね。しかし江戸時代になって、戦がなくなると、なんで人殺しの技術を習得するのかってことになって、そこに独特の美学なり、精神性なりがぐっと洗練された。そして、実際の人殺しのテクニックより、その美学・精神性の探求が目的となる。ラーメンに並ぶのも、栄養を摂取するとか、美食を追究するってことから、並ぶこと、一杯のどんぶり向き合うこと自体が目的となっているんだと思う。

 どう? 少しはわかった?

佐藤 どんぶりと向き合うあたりは、武士道というより茶道という感じだけど、まぁ、先生がそこまで言うんだから、そういうことにしておきましょう。

弓山 いずれにせよ、美学・精神性だな。ウン。そういえば早稲田の一風堂は、行列ができていい気になって、カップ麺を売り出したけど、ありゃ、こうした美学・精神性からいうと邪道ですね。

高橋 一風堂っていうのは「とんこつ」ですよね。「とんこつ」はどうっすか?

弓山 ベースとしての「とんこつ」は好きだけど、トッピングに配慮が足りない店が多いんじゃないかなぁ。少なくとも辛子高菜やゴマやニンニクや紅しょうがは入れ放題であってほしい。そういう意味で博多天神はよくやっている。池袋でいうと東口の屯ちんやバンカラはイマイチだな。熊本ラーメンになるんだけど、立教通りの味千ラーメンなんて、入れ放題は揚げニンニクだけだもんな。自慢のパイクー(軟骨付きチャーシュ)や柔らかめの麺も、どうも「とんこつ」とミスマッチ。替え玉もない。もっとも、あんな柔らかい麺は替え玉したくないけどね。

 話はトッピングに変わるけど、新発見が一つ。僕は煮卵はちょっと苦手だったんだけど、中野の青葉は半熟の煮卵。ドローっと黄身が出てて良かった。

野村 丸長は生卵でしたね。これはどうです?

弓山 生ぬるいタレに生卵は抵抗ありますね。僕は試したことない。やっぱり、こう、白身が固まりはじめて、黄身がドローっというのが・・・。

野村 ドローにこだわりますね。「家族ゲーム」の伊丹十三みたいですね。しかしチャーシュ野菜の量は圧巻でしたね。こうなるとトッピングとは言えない。チャーシュ野菜にタレがトッピングされているという感じですね。

弓山 さっきの「べんてん」もトッピングを頼むと後悔したくなるほど量がやってきます。これも張り紙で警告されているんですが。大勝軒系の「ごとう」の「具だくさん」も文字通り「具だくさん」。大勝軒はひたすら麺を食うという感じだけど、その反動でしょうかね。もちろん、「ごとう」も麺が多くて、しかも大盛りにしても料金が変わらななかったと思う。

佐藤 なんだか量が多いとか、トッピングが良いとか悪いとか、美学や精神性とかけ離れてきましたな。

弓山 君はうるさいよ。よし、もうまとめだ。最後に一言ずつ。

高橋 まぁ良かったですね。

弓山 何が良かったんだ? 何が?

野村 もう一回一人で並べと言われても、多分しないと思う。

佐藤 まっ、ということですね。

弓山 おめーら怒るよ。