Archive for 2000年8月30日

カニは高級品か

高級品としてのカニ

 カニは疑うことなく高級品である。行ったことはないが、新橋や神楽坂の料亭などでエライ先生が「まぁ、そこんとこ、一つよろしく」なんて言いながら、きっとカニの身をほじっているに違いない。否、高級料亭だから、しかるべき妙齢の女性がほじってくれて、「まあぁ、ターさん、今日は難しい話、ヌキよ」なんて言って、カニを口に運んでくれるのかもしれない(以上、推測)。

 いずれにせよ、確かにカニは高級品だ。少なくともイワシやサバに比べたら、ぐっとグレードが上である。同じ甲殻類でもエビなんかが、エビフライとか、えびせんとか、お子ちゃま食品に堕しているのに対して、カニは違う。お子さまを寄せ付けない品格がある。大人の、そしてお金持ちの食い物。そう、カニは、何と言っても高級品なのだ。

 

B級な食べ物としてのカニ

 だが、果たしてそうだろうか。最近食べたカニを思い出してみよう。焼き肉食べ放題のオプションで500円アップしたらタラバガニ食べ放題が付いてきた。学生コンパに行ったら、鍋の中でワタリガニが茹だって、うち捨てられていた。食い放題の焼き肉のサイドディッシュだったり、鍋ん中で誰からも見向きもされず煮えあがったりしているものを高級品と考えてよいのだろうか。

 三島由紀夫は嫌いな食べ物の筆頭にカニをあげていた(ちなみに好きな食べ物はビフテキ)。どうもあの形状が嫌なのだそうだ。確かに、よく見ると、よく見なくても、カニはグロテスクだ。高級品と呼ぶにはあまりにも品格がない。

 だって考えてみてくださいよ。甲殻類をですね、茹でて、殻を剥がして、あるいは殻から身を引っ掻きだして食うということ自体、とても高級とは言えない。オウムのティローパだったか、死体を埋めに行く場所を決める時に、こう言ったそうじゃない。

 「カニの食えるとことがいい。」

「フレンチがいい」でもなく、「ふぐがいい」でもなく、「カニがいい」なのだ、オウムは。カニとオウムとは何か相照らすものがあるかもしれない。そう、賢明なる読者諸君は、もうお気づきであろう。カニほど、実はB級な食べ物はないのだ。

 

B級グルメ、いきなり北海道編

 そこで食べてきました、カニ。しかも本場・北海道で。

 札幌で学会がちょっとあって、格安チケット(往復航空代+一泊ホテル代で税込み27800円)で行ってきました。チケットからしてB級ですね。そしてさすが格安チケットだけあって、フライトが朝の6:25、カウンターには一時間前に来いって。始発に乗っても間に合いませんねぇ。そんなんで遅刻して羽田に着くと、あら産経のエリート記者のKさんがいるじゃない。ダメだよ、エリートが、こんなB級な旅をしてちゃ。そこで札幌までご一緒。

 札幌駅に着いたのはジャスト9時。何すんだよ。こんな時間に。途中、千歳から札幌までの電車の中で、四人組の20歳台サラリーマンが『ススキノ情報』などのピンク情報誌を買い込んで、ビール片手に早朝割引の店の検討していたのことがフト頭をよぎるが、気の弱い我々は取りあえず、札幌時計台に。

 ・・・呆然と時計台を眺めて、北海道庁に。ここでも呆然と執務室などでたたずんで、やるに事欠いて、お亡くなりになられた皇太后さまの記帳を済まして、これで10時。そんでもって何すんだよってことで、どちらが言い出すでなく、おもむろに、

 「ちょっと早いけど、行っちゃいましょーか。」

 「へ、へ、へ、北海道まで来たんだから、やっぱ行くしかないでしょー。」

ってことで、二人はススキノ早朝割引へ、じゃなかった、カニを食べに・・・。

 

どこでカニを食べるか

 実は迷ったんですよ。さすがに札幌まで来て「カニ○楽」じゃないでしょ。だってあそこは本店大阪だよ。無料で配られてるタウン誌掲載の店を一つひとつ検討すると、朝10時台からカニが食えるのは、どうも市場しかない。とういうことでタクシーで二条市場へ。

 市場というから東京・築地のようなとこを想像してたら、あら意外にちっちゃいのね。そこで、まずはぐるーっと一回り。あるじゃない。旨そうなんだか、まずそうなんだか、よくわかんない小さな店が。しかし我々の目にとまったのは、料理店ではなく、カニの直送販売をしている店。どうやら試食を兼ねて、茹でたてのカニを店頭で食わせるらしい。

 そこで問屋と直送をやっている店に落ち着くと、品定め。「毛ガニ、毛ガニ」とわめいていあたK記者は、タラバを試食するなり、「これいきましょう」。値段は、ナ・ン・ト、一パイ、2000円也。

 しかし、僕はそこで重要なことに気が付いた。酒がないんだよ。聞くと飲みたきゃ、近所のスーパーで買ってこいとのこと。が、スーパーの場所がよくわかんない。あたりに自動販売機はないのか。ない。喫茶店からビールの出前はできるのか。できない。まぁ諦めるしかないですね。

 お、お、お、出てきましたタラバガニが。それとはさみが・・・、出てきたのは、これと殻入れだけ。後にあっておしぼりサービス有り。しかし箸もなければ、取り皿もなし。もちろん酢タレもない。いいでしょう。郷に入れば郷に従えって訳でかぶりつく。

 

暴虐の限り

 む、む、む、うまい、うまい。あしをもぎ、はさみで殻を切り裂き、ぎゅっと締まった蟹身を食う。殻を割り、薄皮を剥がし、ぶよぶよした内臓を食う。何だかとっても残酷な気分になってきたぞ。爪を二つに裂き、身を引っぱり出し、かぶりつく。向かいのK記者も興奮している。「弓山さん、毛ガニ、毛ガニいきましょう。」

 毛ガニを注文する。一パイ、2500円だ。これも、う、う、うまい。今度は身をほじくる金属の耳掻きのようなものも出てきた。この金属棒をあしに突っ込み、蟹身を引っ掻きだし、その甘い味を楽しむ。甲羅を剥がし、どろりとしたミソをすすり、その濃厚さを堪能する。

 どこが高級品なんじゃい。普段お高くとまってやがって。新橋や神楽坂ですいぶんいい気になってるそーじゃねーか。

 こうしてやる。

 こうしてやる。

 こうしてやる。

 これでもか。

 これでもか。

さ、さ、酒が飲みたい。だが、ない。しかたがない。その怒りをカニに向かわせる。あしにはさみを入れ、ボタボタこぼれ落ちる身汁をば、ちゅーちゅーと吸う。

 

 40分後、テーブルの上を食い散らかし、手と口のまわりをカニの汁だらけにし、我々の戦いは終わった。二ハイ5000円弱のカニの掃討に、ワレラ成功セリ。K記者は店頭でラムネを飲んでいる。洗面所で手と顔を洗い、周囲を眺める余裕もうまれ、あたりを見回すと、いるわ、いるわ、カニが数十尾。問屋だから当たり前か。元気の良い何尾かが、水槽から片身を乗り出して、やぶにらみでこちらを見ている。

 考えてみれば残酷だな。食われたカニにしてみれば、同胞のいる前で、釜ゆでにされ、死してなお、屍に陵辱の限りを尽くされ、蹂躙されたんだものな。だが、これぞB級グルメ。新橋や神楽坂の料亭で「センセ、はい、あーんして」ってやってもらうセンセ(以上、推測)には味わえない、B級な醍醐味なのだ。