ホセ&ミリアム・アーグエイエス『マンダラ』中村正明訳、青土社、1997年

 チベット密教の儀式で使われ、その基本的世界観(コスモロジー)をあらわすマンダラ。極彩色の宇宙の中で神々が交歓するさま(もっともこれはマンダラの一種類にすぎない)に驚いたことのある人も多いだろう。西洋でも、心理学者のユングによって、また一九七〇年代のカウンターカルチャーにおける東洋志向によって、マンダラは注目を集めてきた。本書は美術史を専攻した著者によるものであるが、よくある異国趣味の単なるマンダラの紹介にとどまらず、マンダラの持つ意識変容の力に私たちをいざない、目を覚かせてくれる。
 さて、この意識変容の力とは、マンダラの有する独特な形象―いわば常に中心に向かうエネルギーの流れ―を観想したり、また実際にマンダラを作成することによってもたらされるという。そこで人は根源へと向かい、そこからあふれる無限のエネルギーに接して心と体が清まり、生命を更新することができる。つまり人はマンダラを生き、ここに劇的な癒し(ヒーリング)が生まれる。このあたりは、実際にマンダラを用いたワークショップを主催する筆者ならではの説得力がある。
 また本書は、こうしたマンダラ的装置はチベット文化にだけではなく、アメリカの先住民族の儀式や古代イギリスの巨石文化遺跡ストーンヘンジなど、広く諸文化に見られるということを教えてくれる。古今東西の聖句が繰り出される本書は、それだけでも読む者の魂を癒してくれる。さらに、本書を開くと、それこそマンダラを意識した美しい装丁と、筆者が作成したマンダラの挿画が目に飛び込んでくる。これも一見の価値がある。
 なお、訳者の中村正明氏は松江市生れで、最近ではサブカルチャーの教祖的存在であるコリン・ウィルソン関連の翻訳も多い。小生は松江にある財団法人祈月書院の会合で現代宗教に関して話したことで、お会いする機会を得、ヒーリングなどについて情報を交換した。今後も良書の紹介を念願する次第である。

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