藤原成一『癒しの日本文化誌』法藏館、1997年

藤原成一『癒しの日本文化誌』法藏館、三四〇〇円
 心身を癒すセラピーやワークショップが流行っていることに対して、皮肉屋の友人が「ガーデンニングや園芸療法っていっても、しょせんは野良仕事でしょ」といったことがる。そういえば箱庭療法や自然と戯れるネイチャーゲームのある要素は盆栽作りに似てなくもないし、プレイセラピーで、ある役をこなすことで自己実現を目指す機能は民俗芸能にもあるだろう。何もことさら「癒し」「ヒーリング」などといわなくても、そうしたものは何気ない日常の中にすでに備わっているのかもしれない。
 本書は、こうした昨今話題となっている癒しの技法や発想を、主に日本の伝統文化の中に見出していこうとするものである。花見や湯治が憂さ「晴らし」という癒しになることくらいは、私たちもすでに知っているが、本書を読むと、かつては生活の中に癒される場と時がたくさんちりばめられていたことがわかる。
 もっとも、それでは昔は抑圧がなくて人々が幸せだったのかとか、そんなに日本文化を賛美していいの、という批判も聞こえてきそうだ。しかしいかに多くの癒しの知恵が伝統によって受け継がれてきたかを、そして同時に今の私たちがこうした知恵とかけ離れているのかを再認識するには、本書は絶好の良書である。また長らく編集者として、さまざまな企画や雑誌つくりに携わってきた著者の幅広い関心と知識も、本書の魅力の一つである。
 周知の通り、教育の現場では、知識偏重の批判から、それこそ畑仕事や早朝清掃や運針など用いた、トータルな人間つくりが提唱されている。私の経験からいっても、音楽や演劇や武道をやっている人たちは、改めて心理療法などを受けなくても、自分をうまく表現し、他者を受け入れる構えができていることが少なくない。こうした、いわば全人教育を考え、実践するうえでも本書を多くのヒントを与えてくれるだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*