ロバート・J・リフトン『終末と救済の幻想』渡辺学訳、岩波書店、2000年

 オウムと聞くと、もはや多くの人は食傷気味の感があるかもしれない。しかし数十年後にまだ読むに値する優れたルポ、ましてや本格的な研究書となると実はそう多くない。
 本書は日本でも名前の知られたアメリカ人精神医学者リフトンが、三年にわたってたびたび来日し、元信者を中心にインタビューを繰り返して書き上げた、渾身のオウム論である。同時にオウム問題から見たアメリカのカルト状況にも大きく紙幅が割かれており、グローバルな視点が提起されている。
 著者の関心は、本書の原題「世界救済のための破壊」の通り、この教団の黙示録的暴力―人類の浄化や刷新のために世界を破壊する暴力―にある。この点から本書では、俗物丸出しの指導者に対する特異なグル信仰や、医療に携わる者の殺人者への転化、宗教と科学や大量破壊兵器との奇妙な同居など、オウムが示したパラドキシカルな構造が解明されていく。しかもそこにはかつて中国共産党の洗脳の研究で昨今のマインドコントロール論の端緒を切り拓き、またナチスの医師を題材に医療による大量殺人のメカニズムにメスを入れた著者ならではの論考が光る。
 また、広島の被爆者の聞き取りなど、著者が一貫して取り組んできたインタビューによる歴史的問題に対する心理学的アプローチがここでもいかされている。元信者の内面に踏み込むと、オウムの錯誤や非合理とは、そもそも人間の内面の奥深いところに横たわっているものに他ならないと考えさせられる。
 冒頭に述べたように優れたオウム研究は少ない。これは明らか日本の研究者の怠慢と意識の低さを示している。宗教研究者の末端にいる評者は本書を前にこの点を恥じ入るとともに、七十歳を越えた著者のこの本がオウム研究の古典となるべき数少ない研究の一つになるものと確信している。

2 comments

  1. 今のご時世逆援助なんて当たり前です

  2. 恋人 千葉 より:

    おかしい事はおかしいって叫びたい。そんな気持ちが伝わるブログ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*