上田紀行『日本型システムの終焉』法蔵館、1998年

  「癒し」をキーワードに論陣を張ってきた著者の大胆な文明批評が出版された。
 本書は少年犯罪、学校、オウム事件、沖縄問題など、世間の耳目を集めた現象の根底に横たわるものを、いのちを覆い隠す閉域=日本型システムであるとする。しかもこのムラ的な閉鎖性は前近代性を背景とするよりも、むしろ合理性と効率性という近代性に立脚するのだと喝破。例えば一見無意味に見える校則で生徒を縛ることは、学校の古い体質に基づいているだけはなく、教室運営や受験競争という近代的な効率性の上に成り立っていると指摘されている。
 興味深いのはこうした一連の考察が、著者の地方国立大学赴任時代に味わった単調で退屈な日々や、逆に南アジアでの刺激的な出来事という個人的な体験から照射されている点である。自己言及的な語り口やこれまでの著作でもお馴染みのエピソードが、本書に独特の説得力を与え、なによりも魅力的な一書に仕上げている。日本型システムからの離脱として提起される〈孤立〉=〈個立〉と〈連帯〉との往還も、著者と母との関係がヒントになっているようだ。
 文化人類学出身の著者だが、その幅広い活動・関心からすると、もはや大学の専攻などという枠組みとは無関係なのかもしれない。しかし異郷の地で文化の多様性を理解し、それを相対化するのが文化人類学の仕事の一つであるとするならば、南アジアでの見聞や「いのちのつながり」への洞察から、日本を、そして自己をも相対化しようとする本書は、その意味で極めて文化人類学的であると私は思う。

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