僕の卒論提出(3)提出

10月に草稿はできたものの、11月に祖父が入院・他界し、東京と愛媛の間を二往復した。母が看病で不在の間、家事も僕の仕事だった。卒論は思うように進まず、祖父の葬儀の帰りの飛行機の中で草稿を読み直しながら、暗澹たる気持ちになった。
幸い、草稿を学生論文集にも投稿したので、当時出たばかりのポータブルワープロで友人が入力をしてくれていた。この頃のワープロはフロッピーディスクがなく、音声テープにファックス音みたいなものを録音し、それを再生すると、わずか8文字のディスプレイに文字が浮かび上がってくるという魔術のような箱であった。それでもリライトは、ずいぶんと楽だった。
年末から正月は夜警のバイト。そこで何とか清書を始めた。そう、当時はワープロ提出は認められていなかったのである。手書きをワープロで清書するという話は聞いたこともあるが、ワープロで書いたものを手書きで清書しなければならない時代だった。400字を清書するのに、推敲したり、書き直したりすると1時間はかかった。一日10時間清書しても原稿用紙10枚しかいかない。僕の卒論は80枚程度だから8日あればできる。提出は確か1月10日。何月何日の何時と提出時間は数時間の幅しかなく、その時に提出できなければアウトだった。
、、、というときに、人はたいてい体調を崩す。僕のばあいは大腸カタルであった。いたんだカマボコを食べたせいである。ツメがひっくり返るんじゃないかと思うような激痛に苦しみ、卒論の清書どころはなくなり、医者で鎮痛剤を打ってもらった。
卒論提出の日は全学バリケードストライキだった。先輩が書いた8枚看(ベニヤ4枚で一文字、それを8文字連ねた「全学スト決行中!」という立て看板)が、正門入ったところの校舎に掲げられ、教職員は一切入校できない状態であった。卒論の提出場所が学外に変更になったとか、学生は入ることができるから提出は予定通りだとか、拡声器の大音響の中で、怒号が飛び交った。学内から拡声器でアジっているのは友人や後輩で、僕はというと門の外にいた。冷え切った鉄製の門を境に友人らと対峙し、えらく不思議な感覚に陥りながら、二転三転する情報を頼りに卒論を提出した。
草稿提出後のようにストライキを激励にしに行くことはためらわれ、そのままバイトに向かった。

6 comments

  1. こみかど より:

    現在大学4年生のまさに卒論執筆中の者です。
    私も11月に祖母を亡くし、葬儀やら何やらでばたばたしていて、気がついたら卒論提出期限の1ヶ月前になっていました。そこから慌てて作業にとりかかり、現在に至ります。祖母は亡くなる1ヶ月前から体調を崩していて、もしも今その頃と同じような状態だったら、おそらく私は卒論を書く気にはならなかったと思います。祖母は孫のために逝く日を選んでくれたのでしょうか。自分のわがままに胸が痛みます。
    と誰かに話したかったので、初めて書き込みしてみました。

  2. 福島の高3 より:

    はじめましてこんにちわ。福島に住んでいる高校生です。中央公論の記事を読みました。家でいつも占いやオカルトやスピリチュアルカウンセリングのことが好きなことを親に注意されて悩んでいたんですけれど、大学教授もそういうのが好きなので親に見せましたけど親が少し安心してくれました。大学受験で大学を受けるんですけれども親は経済学部や法学部みたいなちゃんとしたことを勉強する学部にしか行っちゃいけないというんですけど大学でああいうことも勉強できるんだと中央公論ではじめてしったのでせっかく大学に行くんだったら好きなオカルトとか占いとかの勉強をしたいと思うようになりました。親を説得できるかどうかはわからないですけど親に相談してみたいと思えました。中央公論という雑誌はなんとなくしかしらなっかたですけど駅前の本屋で偶然立ち読みできてよかったと思います。ああいうことを勉強するんだったら大正大学が一番いいんですか?

  3. 弓山達也 より:

    ■こみかど君
    僕も全く同じ経験を昨年しました。欧州と韓国の出張と続く夏休み、出張が終わり講義が始まる数日前に父が他界したのです。出張中でもなく、講義が始まったあわただしい時期でもない時を父が待っていたかのようでした。
    ■高3君
    コメントありがとう。また中央公論を手に取られたのですね。立派です。ただ、あそこに書かれたようなことや占いやオカルトを勉強できる学科はないかもしれません。
    大学では、オカルトや占いを研究するする方法や立場を学んだり、またそれに関する学説を学んだりします。「宗教学」という学問や、海外のことなら「民族学」「人類学」という学問で、そうしたことに触れることができます。
    大正大学には宗教学の先生が多くいます。ただ、僕は所属が違うのです。本当に関心があるなら、大学の入試課に電話をして、見学に来るといいです。「弓山先生と話したい」といえば、そういう案内もしてくれるはずです。

  4. 福島の高3 より:

    先日はお返事ありがとうございました。あれから両親や学校の先生といろいろ話し合いをしました。あんまり占いやオカルトのことを勉強できないのだったら、いい大学のふつうの学部に行って、趣味としてそっちをがんばったらいいとみんなに言われて、そうしようと思いました。偏差値が高い学校の法学部か経済学部に入って、いろんな本を読んで、将来を考えるのがいいと思えたので、宗教の勉強は一時棚上げします。ドラゴン桜で選択肢が多い大学に行くといいと書いてあって、なるほどと思ってので、まずはそういうことにして、学びたくなったら大学院で宗教の勉強をしてみようと思います。弓山先生の経歴をみたら、違う学科から宗教の学校に進んでいたので、まずはふつうの勉強をしたいと思えるようになりました。全然知らない一読者の質問に丁寧に答えていただいてありがとうございました。

  5. 弓山達也 より:

    高3君
    まったく正しい選択です。頑張ってください。

  6. omanko より:

    どこのブログシステムが一番いいのですかね?

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