ポスト・ラーメン―ラーメンを越えて

ラーメン求道の旅

 1999年初夏。私は永かったラーメン求道の旅に終止符をうちました。

 それまでは荻窪に美味い東京ラーメンがあると聞いたら出向いて落胆し、立教通りにまた一つ開店したというと訪れて立腹し、そんな一喜一憂というか、喜怒哀楽というか、魂の遍歴を重ねておりました。

 しかしその旅も終わりました。それは二郎三田本店と目白の丸長(まるちょう)に出会ったから・・・。

 「二郎」に関してよくなされている評を繰り返させていただければ、この二つは、もはやラーメンとはいえない。これは「ジロウ」「マルチョウ」という食べ物だ。僕は、ここんとこ毎週一回30分(土曜日は45〜60分)並び丸長を食べ、慶応大学助教授のK同志のところで研究会のある時は、K同士のご指導のもとに9:50に二郎に並び、これを喰している。

奥の深さとインパクトと中毒性

 なぜ二郎には「ご指導」が必要かというと、一見さんや時々来るくらいだと、注文の仕方がよくわかんないから。店の人の「ハイ」というかけ声に、客が次々「ニンニクドカヤサイ」、「ヤサイカラメ」、「ニンニクアブラ」といった呪文じゃなくて、注文を唱える光景は、さながら秘密結社の様相を呈している。もし全く注文の仕方を知らずに入店してしまって、この状況に直面したら、と思うと背筋が寒くなる。その辺の奥の深さに加え、二郎、そして丸長も、インパクトと強い中毒性において他の追随を許しません。これは断言できます。

 ほら、○○のトンコツが旨いとか、××の味噌が美味しいっていうのは、人によるじゃない。麺が太いとか細いとか、味が濃いとか薄いとか、量が少ないとか多いとか、そんな チンケな問題を軽くクリアーしてんるんだよ。そうじゃないんだよ、この二店は。

 二郎に関しては、ここをクリックしていただければ、その深遠さが十分にご理解していただけると確信しています。・・・ハイ、見ていただけましたね。怖いですね。奥が深いですね。こんな世界があったんですね。よくぞ、このエッセイに戻ってきてくださいました。では、続けましょう。

丸長の食べ方

 そこで目白の住人としては、やはり丸長をご紹介させていただかないといけまんせん。目白の名物は、皇室の方が通われるケーキ屋さんでもなければ、○○がひいきのフレンチでも、断じてない。それは月曜から土曜まで10時半ともなると忽然と行列が出来始め、11時に開店、12時には「チャーシュなくなりました」という張り紙が出て、14時には堂々閉店している、丸長なのだ。

 丸長はですね、一言でいうと、酸っぱ辛い極太つけそばなのです。

 ただし量が半端じゃない。人気メニューの「チャーシュ野菜」(60分で品切れ)は、どんぶりにチャーシュを砕いたものと煮野菜がぎっちり詰め込まれて、そこに秘伝のたれとスープがかかってる。だからまず麺をつける「穴」を空けるんだ。

 そしてそこに麺をつけて食べる。麺の量には4種類あって、何も言わないと「並」。「中」50円増し、「大」100円増し、「特大」150円増し。僕は「中」を食べるんだけど、けっこうきつい。「大」で、ほぼ二倍。「特大」注文者にはあまりお目にかかったことがないが、それ専用の深めの皿に溢れんばかりの麺がもられているのを目撃したことがある。

 食べ終わったら熱いスープを注いでもらって残り汁を平らげる。まぁ、早食いの僕でも15〜20分はかかる。1回目は「なんだこんなもんか」と思うんだけど、翌日、同時刻に店の前に並びたい衝動にかられる。「ブラックカレー」(「庖丁人味平」参照)を彷彿とさせるね。

 前述の通り、注文の仕方がよくわからい点が二郎に似てる。数少ないメニューの筆頭に書いてある「ラーメン」を頼んでる人はまずいなくて、頼むと露骨に嫌な顔をされる。よくでる「コバチ」という、メニューにはないものを頼むと、「チャーシュ野菜」の具の少ないものがでてくる。その他、「辛子なし」「○○抜き」とか、またスープを注いで貰うタイミングとか、毎日、謎のネクタイ族が車で乗り付け、並ばずに「チャーシュ野菜」10人分らしきものを搬出しているなど、よくわかんないことがあって、ますます奥が深いです。

新たな文化との遭遇

 僕は二郎と丸長を喰させていただいているとき、とても崇高な気持ちになります。それはラーメンの完成形態というか最終段階というか、いやむしろ何か、こうぅ、ラーメンを越えた新たな食文化と出会った感激のためです。きっとE.T.に遭遇したら、こういく気持ちになるんだろうな。ここに行き着くまでの両店の気の遠くなるようなご精進と、それを支え育んだお客さん熱い想いを考えると、長い行列は全く苦にならないどころか、むしろ厳粛な気持ちにさえさせてくれます。もちろん脂っこい汁(二郎)・辛いたれ(丸長)も、その日によって堅さが異なる麺も、敬意をもって一滴・一筋残さず完飲・完食させていただいてます。

 そうなんだよ、こうじゃなきゃいけないんだよ。情報誌が垂れ流して巷に氾濫するラーメンランキングを粉砕する衝撃が、ここには絶対ある。

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